家族信託をすると、不動産の登記名義は受託者に変わります。賃貸借契約書や家賃の振込口座、請求書の名義も受託者に変更されることがあります。そのため、「受託者が消費税を申告するのではないか」と考えやすいところです。

しかし、一般的な受益者等課税信託では、消費税の課税関係は原則として受益者を基準に判定します。受託者名義で管理していることと、消費税を申告する人が誰かは分けて考える必要があります。この記事では、賃貸不動産を家族信託した場合の消費税、課税売上高1,000万円の判定、受益者変更、インボイスと請求書の名義を整理します。

家族信託の消費税は原則として受益者に帰属する

消費税法では、信託財産に属する資産の譲渡等や課税仕入れは、原則として受益者が行ったものとして取り扱います。家族信託した賃貸不動産から生じる賃料についても、一般的な受益者等課税信託であれば、受益者に帰属する売上として消費税を判定します。

管理する受託者と申告する受益者は同じとは限らない

立場 主な役割
受託者 信託不動産の管理、賃料の受領、契約や請求書などの実務を行う
受益者 信託財産から生じる経済的利益を受け、原則として消費税の納税義務を判定する

所得税についても、一般的な受益者等課税信託では受益者に所得が帰属します。毎年の所得税申告は、家族信託した賃貸不動産の確定申告と併せて確認してください。

受託者名義の口座に入金されても受託者の売上とは限らない

家賃が受託者名義の信託口口座へ振り込まれていても、その名義だけで受託者の売上になるわけではありません。信託契約の内容、受益者、賃貸借契約、帳簿を照合し、誰に取引が帰属するかを確認します。

信託設定による名義変更だけでは原則として消費税はかからない

委託者が受益者でもある自益信託で、不動産を受託者名義へ移すだけであれば、通常は経済的利益が別の人へ移りません。信託設定時の名義変更だけを理由として、直ちに建物の売却として消費税がかかるわけではありません。

ただし、当初から委託者と受益者が異なる場合や、設定時に別の人が受益権を取得する場合は、贈与税を含めて別の検討が必要です。名義変更だけを見るのではなく、信託財産の利益を受ける人が変わったかを確認します。

賃料が課税されるかどうかは物件の用途で決まる

賃貸不動産の賃料が消費税の課税対象になるかは、信託の有無ではなく、物件の用途や契約内容で決まります。

主な賃貸の内容 消費税の取扱い 確認点
住宅の貸付け 原則として非課税 契約で住宅用であることが明らかか
店舗・事務所・倉庫 原則として課税 賃料や共益費の内容
駐車場 原則として課税 住宅と一体の貸付けに当たるか
土地の貸付け 原則として非課税 貸付期間や施設利用を伴うか

住宅の家賃は原則として非課税

契約において人の居住用であることが明らかな住宅の貸付けは、原則として消費税が非課税です。受益者が課税事業者であっても、住宅家賃そのものに消費税を上乗せするわけではありません。

店舗・事務所・倉庫の賃料は原則として課税

店舗、事務所、倉庫など事業用不動産の賃料は、原則として消費税の課税売上です。受益者が課税事業者であれば、賃料に係る消費税を申告します。共益費や看板使用料なども、契約内容に応じて判定します。

駐車場は貸し方によって取扱いが変わる

設備を設けた駐車場や、駐車区画として管理して貸し付ける場合は、原則として課税です。一方、住宅の戸数に対応した駐車場が住宅と一体で貸し付けられ、別料金を収受していない場合などは、住宅の貸付けに含まれることがあります。

課税売上高1,000万円の判定は受益者単位で行う

消費税の納税義務は、原則として基準期間の課税売上高などにより判定します。一般的な個人の受益者であれば、前々年の課税売上高が1,000万円を超えるかなどを確認します。

この判定では、信託財産から生じる課税売上だけを見るのではありません。受益者本人が信託外で営む事業の課税売上も合算します。例えば、受益者が個人事業を営みながら、信託不動産の店舗賃料を受ける場合は、両方を合わせて判定します。

複数の信託がある場合も受益者ごとに合算する

同じ受益者が複数の家族信託から課税売上を得ている場合、それぞれを別事業者として1,000万円判定するのではなく、受益者単位で合算します。受託者や信託契約が別であっても、帰属する受益者が同じなら一体で確認します。

受益者が複数いる場合は帰属割合を確認する

受益者が複数いるときは、信託契約で定められた受益権の内容や収益の分配割合に応じて、それぞれの受益者に帰属する課税売上を整理します。形式的に人数で均等配分せず、契約書と実際の分配を確認します。

受益者が変わったときは消費税とインボイスも確認する

受益者の死亡、受益権の譲渡、受益者変更などにより収益の帰属者が変わると、その後の消費税の納税義務も新しい受益者について判定します。以前の受益者が課税事業者であっても、新しい受益者が自動的に課税事業者になるわけではありません。

反対に、新しい受益者が別の事業で課税売上を有している場合は、信託不動産の課税売上と合算した判定が必要です。受益者が亡くなったときの相続税申告だけでなく、消費税の申告主体、インボイス登録、請求書の記載も切れ目なく見直します。

家族信託後のインボイスは3つの名義を照合する

店舗や事務所などの賃料について借主が仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書の保存が必要です。家族信託後は、少なくとも次の3つを照合します。

  • 消費税の課税売上が帰属する受益者
  • 適格請求書発行事業者として登録されている人と登録番号
  • 賃貸借契約書、請求書、振込先口座に表示される受託者名義

請求書の発行実務を受託者や管理会社が行う場合でも、誰の取引について請求書を発行しているかが分かるようにします。受益者の登録番号、信託財産に係る賃料であること、受託者が管理者として発行することなどを、契約書や請求書で整合させることが重要です。

受益者が変更された場合は、旧受益者の登録番号をそのまま使い続けないよう注意します。新しい受益者の課税事業者・免税事業者の判定と登録状況を確認し、必要に応じて借主や管理会社へ通知します。

住宅家賃には原則としてインボイスは不要

住宅の貸付けは原則として非課税のため、住宅家賃について適格請求書を交付する必要はありません。ただし、同じ建物に店舗、事務所、駐車場などの課税取引が含まれる場合は、課税部分と非課税部分を区分します。

修繕・建替えをしたときの仕入税額控除

信託不動産について修繕、設備更新、建替えを行った場合、工事代金に含まれる消費税を控除できるかは、受益者の課税事業者区分、簡易課税の選択、工事後の用途などにより異なります。

店舗など課税売上に対応する支出であれば仕入税額控除の対象になり得ますが、住宅家賃など非課税売上に対応する支出は原則として控除できません。課税用途と非課税用途が混在する場合は、共通仕入れの区分や按分も必要です。

住宅賃貸建物の取得には控除制限がある

居住用賃貸建物の取得等に係る消費税については、原則として仕入税額控除が制限されます。高額な建替えや取得を予定している場合は、契約前に建物の用途、課税売上割合、調整計算の可能性を確認します。登記名義が受託者であっても、請求書、工事契約、支払口座、帳簿上の処理を受益者の申告と整合させる必要があります。

最初にそろえたい資料

消費税とインボイスの取扱いを確認するときは、次の資料をそろえます。

  • 信託契約書と財産目録
  • 賃貸借契約書
  • 物件ごとの用途、賃料、共益費、駐車場料金の一覧
  • 受益者の信託外事業を含む課税売上一覧
  • 適格請求書発行事業者の登録通知書と登録番号
  • 借主へ交付している請求書や賃料通知
  • 管理会社との契約書
  • 修繕・設備・建替えに関する契約書と請求書
  • 受益者の変更日が分かる資料

家族信託の終了時に不動産を引き渡す場合は、消費税だけでなく、信託終了時の贈与税・相続税、登録免許税、不動産取得税も別に確認します。

家族信託の消費税は名義だけで判断しない

家族信託した賃貸不動産の消費税は、受託者名義の登記や口座だけで判断しません。一般的な受益者等課税信託では、受益者を基準として、物件の用途、課税売上高、課税事業者の区分、インボイス登録を確認します。

特に、店舗・事務所・駐車場がある場合、受益者が信託外でも事業を行っている場合、受益者が変更された場合、修繕や建替えを予定している場合は、契約書・請求書・登録番号・帳簿をまとめて照合することが重要です。信託を始める前から、受託者、受益者、管理会社、税理士の役割を決めておきましょう。