家族信託をしたら税務署への届出は必要?受益者別調書・信託の計算書を解説
家族信託を始めたとき、「税務署へ何か届出が必要なのか」と迷うことがあります。家族信託には、契約を結んだだけで全員が提出する一律の開始届があるわけではありません。ただし、受益者が変わったときや、信託財産から収益が生じたときには、受託者が法定調書を提出しなければならない場合があります。
主に確認するのは、設定・変更・終了などの都度に提出を検討する「受益者別調書」と、収益がある信託について毎年提出を検討する「信託の計算書」です。この記事では、誰が、いつ、どの書類を提出するのかを実務の流れに沿って整理します。
税務署へ提出する書類は「臨時」と「毎年」に分けて考える
家族信託に関する税務署への書類は、提出のきっかけで分けると理解しやすくなります。
| 区分 | 主な書類 | 主な提出場面 | 原則的な期限 |
|---|---|---|---|
| 臨時 | 受益者別調書 | 信託の設定、受益者の変更、信託の終了など | 提出事由が生じた日の属する月の翌月末日 |
| 毎年 | 信託の計算書 | 信託財産から収益が生じた年 | 翌年1月31日 |
提出義務の有無は、信託契約の名称だけで決まりません。委託者、受託者、受益者が誰か、受益権がどのように移ったか、収益の額はいくらかを確認して判定します。
設定・変更・終了時に確認する受益者別調書
受益者別調書は、信託の効力が生じたとき、受益者が変更されたとき、信託が終了したときなどに、受託者が税務署へ提出する法定調書です。受益者が信託に関する権利を取得した事実と、その時点の信託財産の内容・価額などを税務署へ知らせる役割があります。
例えば、親を委託者兼受益者、子を受託者とする自益信託を設定した場合、設定時に経済的利益が別の人へ移らないことがあります。一方、受益者を別の人に変更した場合や、受益者の死亡により次の受益者が権利を取得した場合には、贈与税や相続税の検討と併せて受益者別調書を確認します。
受益者別調書の期限は翌月末日
受益者別調書の提出期限は、原則として、提出事由が生じた日の属する月の翌月末日です。年末にまとめて判断する書類ではありません。信託の設定、受益者の変更、受益権の放棄、信託の終了などがあった時点で、提出の要否と期限を確認する必要があります。
期限管理では、契約書を作成した日だけでなく、信託の効力発生日や受益者が権利を取得した日を確認します。登記日や金融機関での口座開設日と一致するとは限らないため、契約書の条項と実際の出来事を照合します。
受益者別調書には何を記載するのか
受益者別調書には、委託者、受託者、受益者の氏名・住所、信託の種類、提出事由、信託財産の種類、数量、価額などを記載します。土地、建物、有価証券、預貯金などがある場合は、受益者ごとに信託財産を区分し、相続税評価の考え方も確認します。
形式上の名義だけでなく、誰が経済的利益を受ける権利を持つかが重要です。契約書、財産目録、登記事項証明書、残高資料などをそろえ、受益権の内容と財産評価を一致させます。
自益信託なら常に提出不要とは限らない
委託者と受益者が同じ自益信託では、設定時に受益者へ新たな経済的利益が移らないため、一定の場合には受益者別調書の提出を要しないことがあります。ただし、「自益信託だから、その後もすべて不要」とは限りません。
受益者の変更、受益権の一部譲渡、受益者の死亡、信託の終了などにより、別の人が権利を取得すれば、改めて提出義務を判定します。受益者連続型の家族信託では、将来の受益者交代も含めて管理することが大切です。
収益がある場合は毎年「信託の計算書」を確認する
信託財産から家賃、利息、配当などの収益が生じる場合は、受託者が「信託の計算書」と合計表を税務署へ提出することがあります。提出期限は、原則として翌年1月31日です。
自宅だけを信託し、収益が生じない場合と、賃貸不動産を信託して家賃収入がある場合とでは、毎年の実務が異なります。賃貸不動産については、家族信託した賃貸不動産の確定申告も併せて確認してください。
信託の計算書には収益・費用・資産・負債を記載する
信託の計算書には、信託財産に帰属する収益と費用、年末時点の資産と負債などを記載します。受益者が複数いる場合は、それぞれに帰属する金額を整理します。
賃貸不動産であれば、家賃収入、管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費、借入金残高などの資料が必要になります。受託者名義の専用口座を設け、信託外の入出金と混在させないことが、年次集計の負担を減らします。
「利益」ではなく「収益」が3万円以下かで判定する
信託の計算書には、各人別の信託財産に帰せられる収益の額が3万円以下である場合など、一定の提出省略があります。ここで注意したいのは、3万円以下かどうかを「利益」ではなく「収益」で見る点です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入 | 100万円 |
| 必要経費 | 150万円 |
| 不動産所得 | 50万円の赤字 |
この例では所得は赤字ですが、収益である家賃収入は100万円です。「赤字だから提出不要」「利益が3万円以下だから提出不要」とは判断できません。総収入金額、必要経費、提出省略要件を分けて確認します。
受託者の法定調書と受益者の確定申告は別の手続
信託の計算書を提出するのは受託者ですが、受益者等課税信託において所得税の確定申告をするのは、原則として収益の帰属者である受益者です。両者は目的も提出者も異なります。
| 項目 | 信託の計算書 | 確定申告書 |
|---|---|---|
| 主な提出者 | 受託者 | 受益者 |
| 主な目的 | 信託財産の収益・費用・資産・負債の報告 | 受益者に帰属する所得と税額の申告 |
| 主な期限 | 翌年1月31日 | 原則として翌年3月15日 |
受託者が信託の計算書を提出しても、受益者の確定申告が自動的に完了するわけではありません。反対に、受益者が確定申告をしても、受託者の法定調書の提出義務がなくなるわけではありません。
計算書と確定申告書の数字に差があれば理由を確認する
信託の計算書と受益者の確定申告書は、同じ帳簿や証憑を基礎に作成します。家賃収入、必要経費、減価償却費、年末残高などに差がある場合は、その理由を説明できるようにしておきます。
受託者と受益者が別々の税理士へ依頼している場合や、管理会社からの報告時期が遅い場合は、数字の不一致が起こりやすくなります。年末を待たずに資料の受渡し方法と担当者を決めておくことが重要です。
家族信託を始める前に実務担当者を決める
受託者は財産管理だけでなく、帳簿作成、証憑保存、法定調書の提出に必要な情報整理も担います。契約書を作成する専門家と、毎年の税務を担当する税理士が異なることもあるため、次の事項を開始前に決めておきます。
- 信託専用口座の入出金を誰が記録するか
- 家賃、経費、固定資産税などの資料を誰が保管するか
- 受益者の変更や死亡を誰が税理士へ連絡するか
- 受益者別調書と信託の計算書を誰が作成するか
- 受益者の確定申告とどのように数字を照合するか
出来事があったら提出書類を確認する
| 出来事 | 主に確認する書類・手続 |
|---|---|
| 信託を設定した | 受益者別調書、贈与税の有無 |
| 受益者を変更した | 受益者別調書、贈与税の有無 |
| 受益者が亡くなった | 受益者別調書、相続税申告 |
| 信託財産から収益が生じた | 信託の計算書、受益者の確定申告 |
| 信託が終了した | 受益者別調書、贈与税・相続税・所得税、登記関係 |
家族信託の終了時の税務では、残余財産を誰が取得するかによって課税関係が変わります。契約終了後にまとめて考えるのではなく、終了条件と帰属権利者を契約段階から確認してください。
まとめ
家族信託には、契約を結んだ全員が提出する一律の開始届があるわけではありません。しかし、設定・変更・終了時には受益者別調書、収益がある年には信託の計算書の提出を確認する必要があります。
特に注意したいのは、受益者別調書の期限が原則として翌月末日であること、信託の計算書の3万円基準は利益ではなく収益で判定すること、受託者の法定調書と受益者の確定申告が別の手続であることです。契約書、財産目録、帳簿、申告資料を一つの流れで管理し、出来事が生じた時点で提出の要否を確認しましょう。