家族信託で受益者を次々に指定すると相続税はどうなる?受益者連続型信託の課税関係
家族信託では、現在の受益者が亡くなった後の受益者を、信託契約であらかじめ定められる場合があります。例えば、父の死亡後は母、母の死亡後は長男を受益者とする設計です。
このような「受益者連続型信託」でも、受益者交代時の相続税はなくなりません。次の受益者が無償で受益権を取得すると、前の受益者から遺贈により取得したものとみなされます。不動産の登記名義が受託者のままでも、受益者が交代するたびに相続税の確認が必要です。
受益者連続型信託とは
受益者連続型信託とは、受益者の死亡などによって、その人の受益権が消滅または移転し、別の人が受益権を取得するように設計された信託です。
例えば、父が所有する賃貸不動産を長男に信託し、次のように定めるケースが考えられます。
- 委託者:父
- 受託者:長男
- 当初受益者:父
- 父の死亡後の受益者:母
- 母の死亡後の受益者:長男
この設計では、父の死亡後も信託が継続して母が受益者となり、母の死亡後は長男が受益者となります。
信託法には、受益者の死亡によって別の人が新たに受益権を取得する「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の規定があります。ただし、相続税法上の受益者連続型信託には、受益者指定権を利用する信託なども含まれるため、税務上の対象範囲は信託法91条の信託だけに限られません。
受益者が死亡すると相続税がかかるのか
現在の受益者が死亡し、次の受益者が対価を負担せずに受益権を取得した場合、次の受益者は、前の受益者からその権利を遺贈によって取得したものとみなされます。
先ほどの例では、父の死亡によって母が受益者となった時点で、母が父から信託に関する権利を取得したものとして相続税の対象になります。
その後、母が死亡して長男が受益者となった場合には、長男が母から受益権を取得したものとして、改めて相続税の課税関係が生じます。
したがって、課税関係は次のように整理できます。
- 父の死亡:母が父から受益権を取得したものとして相続税を検討
- 母の死亡:長男が母から受益権を取得したものとして相続税を検討
受益者連続型信託は承継先を定める制度であり、相続税を一回分省略する制度ではありません。
相続税がかかるのは受託者ではなく受益者
信託不動産の登記簿には、通常、受託者が所有者として記録されます。しかし、登記名義を持つ受託者が、当然に相続税の納税義務を負うわけではありません。
受託者は財産を管理・処分する人、受益者は信託財産から収益や給付を受ける人です。税務上は、原則として受益者が信託財産を実質的に保有するものとして扱われます。
したがって、受託者が長男、受益者が父である場合、父の死亡時に確認するのは、受託者である長男の登記名義ではなく、父の死亡によって誰が次の受益者になるかです。
母が次の受益者となるなら、母が取得した受益権を、父のほかの相続財産などと合わせて相続税の課税価格に含めます。申告義務がある場合には、原則として、父の死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行います。
受託者である長男が次の受益者にもなる場合は、受託者としてではなく、受益者として取得した権利について相続税を検討します。
相続税では受益権をどのように評価するのか
次の受益者が法律上取得するものは、信託された不動産そのものではなく、信託に関する受益権です。
ただし、相続税を計算するときに、受益権を信託財産から切り離して独自に評価するわけではありません。信託に関する権利を取得した人は、原則として、その権利に対応する信託財産の資産と負債を取得または承継したものとみなされます。
例えば、信託財産に土地と建物が含まれていれば、土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額を基礎として評価します。賃貸中の不動産であれば、要件に応じて貸家建付地や貸家としての評価を検討します。
信託契約で母が受益者となる期間を「母が死亡するまで」と定めていても、期間が限定されていることを理由に、受益権の評価額を単純に低くできるとは限りません。
受益者連続型信託では、利益を受ける期間の制限など、権利の価値に影響する一定の制約は付されていないものとして評価する特例があるためです。
収益受益権と元本受益権を分ける場合は要注意
信託では、賃料などの収益を受け取る「収益受益権」と、最終的に信託財産そのものを受け取る「元本受益権」を異なる人に持たせる設計も考えられます。
しかし、受益者連続型信託において、この二つの権利を分ければ相続税評価額も単純に分割できるとは限りません。
個人が収益受益権の全部を無償で取得する一定の場合には、収益受益権を信託財産全体の価額で評価し、それに対応する元本受益権の価額を零とする取扱いがあります。
収益を受け取れる期間が短いから収益受益権の価額も低い、将来元本を受け取れるから元本受益権の価額が高い、という通常の経済価値だけで判断すると、税務上の評価と大きく異なる可能性があります。
このような複層化された受益権は特殊な論点であるため、契約を作成する前に個別の税額試算が必要です。
受益者の交代と信託終了は異なる
受益者の死亡時に、信託を継続させるのか、信託を終了させるのかによって、財産を取得する仕組みが異なります。
父の死亡後に母が受益者となって信託が継続する場合、母は新たな受益者として受益権を取得します。
一方、父の死亡を信託の終了事由とし、信託終了後の残余財産を母に帰属させる場合、母は信託の終了に伴って残余財産を取得します。
いずれも相続税の対象となる可能性がありますが、取得する権利や必要となる手続は同じではありません。契約書を確認するときは、「受益者の死亡」「次の受益者」「信託の終了事由」「残余財産の帰属先」を分けて読むことが重要です。
30年を経過すれば相続税がかからなくなるわけではない
信託法では、受益者の死亡によって次の受益者が受益権を取得する定めについて、信託が設定されてから30年を経過した後の効力を制限しています。
具体的には、30年を経過した時点で信託が直ちに終了するという規定ではなく、その後に受益者となった人が死亡するまで、またはその人の受益権が消滅するまで効力が認められる仕組みです。
この30年の制限は、受益者の承継を無期限に続けないための民事上の規定です。30年を経過すれば相続税が非課税になるという意味ではありません。
契約前に受益者ごとの税負担を確認する
受益者連続型信託を検討するときは、少なくとも次の事項を確認します。
- 誰が現在の受益者となるのか
- 現在の受益者が死亡した後、誰が受益権を取得するのか
- 各受益者の交代時に、信託財産をいくらで評価するのか
- 各受益者が相続税を支払うための資金を確保できるか
- 最終的に信託をいつ終了し、残余財産を誰に帰属させるのか
受益権の承継先が契約で定まっても、遺留分などの民事上の問題がなくなるとは限りません。税務と相続人の権利関係は分けて検討します。
まとめ
受益者連続型信託では、現在の受益者が死亡し、次の受益者が無償で受益権を取得すると、原則として前の受益者から遺贈によって取得したものとみなされます。
父の死亡後に母、母の死亡後に長男が受益者となる設計では、父の死亡時と母の死亡時のそれぞれについて相続税の検討が必要です。
不動産の登記名義が受託者のままであっても、相続税がかからないとは限りません。また、受益者が利益を受ける期間を限定したり、収益受益権と元本受益権を分けたりしても、その経済価値どおりに受益権を評価できるとは限りません。
受益者連続型信託は、財産の承継先を何段階か先まで定められる一方、税務上の取扱いが複雑になりやすい制度です。契約時には、現在の受益者だけでなく、次の受益者、その次の受益者、信託終了時の帰属先まで並べ、各段階の相続税と納税資金を確認することが重要です。