家族信託を利用している方が亡くなったとき、「不動産の名義は受託者のままだから、相続税の申告には関係がない」と考えてしまうことがあります。

しかし、家族信託では、登記上の名義よりも、財産から利益を受ける権利が誰に移るかが重要です。受益者の死亡により次の人が受益権を取得すると、原則として相続税の対象になります。

また、受益者の死亡によって信託が終わる契約もあれば、次の受益者に引き継いで続く契約もあります。相続税申告を行うには、まず信託契約書を確認し、誰が何を取得したのかを整理することが大切です。


受益者が亡くなっても、信託が終わるとは限りません

家族信託に関係する方が亡くなった場合、最初に確認したいのは「誰が亡くなったのか」です。

財産を預けた委託者、管理を任された受託者、財産から利益を受ける受益者は、それぞれ役割が異なります。同じ人が複数の立場を兼ねていることもあるため、契約書で一人ずつ確認します。

特に重要なのが、亡くなった方が受益者だった場合です。受益者が亡くなった後の取扱いは、主に次の二つに分かれます。

  • 次の受益者が受益権を取得し、信託が続く
  • 受益者の死亡をきっかけに信託が終了し、残った財産が指定された人へ渡る

どちらになるかは、家族だけの話合いで決まるものではありません。契約書に定められた終了事由、次の受益者、残余財産を取得する人などを確認する必要があります。


不動産の名義が動かなくても相続税の対象になり得ます

信託した不動産は、登記上、受託者の名義になっています。受益者が亡くなり、信託がそのまま続く場合には、不動産の所有者として登記されている受託者が変わらないこともあります。

相続税では、信託財産から利益を受ける権利を取得した人について、原則として、その権利に対応する信託財産の資産と負債を取得したものとして扱います。父の死亡後に子が次の受益者となる契約であれば、子が取得する受益権について相続税の検討が必要です。

つまり、「登記名義が変わったか」ではなく、次の点を見ることになります。

  • 死亡時点の受益者は誰か
  • 死亡によって誰がどの権利を取得するか
  • 信託が続くのか、終了するのか
  • 終了する場合、残った財産を誰が取得するか

なお、受益者が順番に交代する信託や、収益を受ける権利と元本を受ける権利を分けた信託には、特別な税務上の取扱いがあります。契約の名称だけで判断せず、権利の内容まで確認することが必要です。


信託が終了する場合は、財産を受け取る人を確認します

受益者の死亡によって信託が終了する契約では、残った財産を誰が取得するかを確認します。この人は、契約書で「残余財産受益者」や「帰属権利者」などと定められていることがあります。

亡くなった受益者と、信託終了後に財産を取得する人が異なる場合には、その財産の移転について相続税が課されることがあります。信託が終了したからといって、税務上の確認も終わるわけではありません。

一方、死亡後も信託が続く場合には、次の受益者が取得した受益権を確認します。終了する場合と継続する場合では、取得するものや必要な手続が異なるため、最初に分けて整理します。


受益権は信託財産の中身に応じて評価します

相続税申告では、受益権を単に「一つの権利」として一律に評価するわけではありません。原則として、その権利に対応する信託財産の中身に応じて評価します。

たとえば、信託財産に土地、建物、預金、賃貸不動産に関する債務が含まれていれば、それぞれの資産と負債を確認します。不動産については所在地、利用状況、賃貸借の状況などを調べ、相続税の評価方法に従って評価します。

信託専用口座の残高だけを受益権の価額とするわけではありません。

複数の受益者がいる場合や、受益権の内容が分かれている場合には、各人が取得する権利の範囲を先に整理します。契約書と財産資料の両方がなければ、正しい評価が難しいことがあります。

信託財産に自宅や賃貸不動産の敷地が含まれている場合には、小規模宅地等の特例を使える可能性もあります。信託に関する権利だから一律に対象外になるわけではありませんが、土地の使われ方、取得した人、居住や事業の状況などの要件を個別に確認します。


信託財産以外の遺産も一緒に確認します

受益権が相続税の対象になる場合でも、相続税申告は信託財産だけで完結しません。

亡くなった方が持っていた預貯金、有価証券、信託していない不動産、生命保険金、非上場株式なども確認し、相続財産全体を集計します。過去の生前贈与や債務、葬式費用について確認が必要になることもあります。

また、信託契約上の「次の受益者」と、民法上の相続人が一致するとは限りません。誰が受益権を取得したかと、信託財産以外の遺産を誰が相続したかを分けて整理し、最終的に一つの相続税申告へまとめます。

受益権の確認だけに時間を使い、ほかの財産調査が遅れると、申告期限までの作業が厳しくなることがあります。相続税の申告期限は、原則として、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。信託がある相続では、早めに契約書と財産資料を集めることが重要です。


賃貸不動産がある場合は準確定申告にも注意します

亡くなった受益者が信託した賃貸不動産の所得を申告していた場合、死亡した年の1月1日から死亡日までの所得について、準確定申告が必要になることがあります。

準確定申告の期限は、原則として、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。相続税の申告期限より早いため、後回しにしないよう注意が必要です。

死亡日前後の家賃、管理費、修繕費、固定資産税などについて、収入や必要経費をどの申告に含めるかも整理します。受益者が交代した場合には、収入の計上時期や費用の帰属を確認する必要があります。

受託者が家賃を受け取り、支払いをしていた場合でも、通帳や帳簿は受託者だけの確定申告資料ではありません。受益者の所得税申告に必要な資料として、死亡後も保管しておくことが大切です。


最初にそろえたい資料

受益者が亡くなったときは、まず次の資料を集めます。

  • 信託契約書と、その後に作成した変更契約書
  • 信託不動産の登記事項証明書、固定資産税関係資料
  • 信託専用口座の通帳、残高証明書、取引明細
  • 賃貸借契約書、家賃の入金明細、経費の領収書
  • 亡くなった方の遺言書、戸籍、信託財産以外の財産資料

契約書だけを見ても、死亡時点の財産額や収支は分かりません。反対に、通帳や登記だけでは、誰が権利を取得したかを判断できません。契約内容と実際の財産の状況を照らし合わせて確認します。


受益者の相続は、契約と税務を一緒に確認してください

家族信託では、受益者が亡くなっても、不動産の名義が受託者のまま変わらないことがあります。しかし、次の受益者が受益権を取得すれば、相続税申告が必要になる可能性があります。

まず信託契約書で、信託が続くのか、誰が受益権または残った財産を取得するのかを確認します。そのうえで、信託財産を評価し、信託していない遺産も含めて相続税申告全体を検討する必要があります。

当事務所では、家族信託に関する受益権の確認と財産評価だけでなく、信託財産以外の遺産を含む相続税申告、賃貸不動産がある場合の準確定申告にも対応しています。


※この記事は、家族信託の受益者が亡くなった場合の一般的な税務上の取扱いを説明したものです。実際の課税関係は、信託契約の内容、受益権の種類、財産の状況などによって異なります。