家族信託を始めた後も、毎年の税務手続が必要です

賃貸不動産を家族信託すると、受託者となった家族が、家賃の受取りや管理費・修繕費の支払いを行います。

ただし、受託者が家賃を管理していても、その家賃が受託者の所得になるわけではありません。

一般的な家族信託では、次のように役割が分かれます。

  • 受益者:信託不動産から生じた所得を自分の所得として計算する
  • 受託者:信託不動産の収支を管理し、必要な書類を税務署へ提出する

さらに、信託不動産が赤字になった場合には、通常の賃貸不動産とは異なる税務上の制限があります。

契約を結んだ後に困らないよう、信託期間中の申告と税務手続まで確認しておくことが大切です。


家賃収入を申告するのは原則として受益者です

たとえば、父が所有する賃貸マンションを長男に信託し、父を受益者とした場合を考えます。

長男は受託者として家賃を受け取り、管理費や修繕費を支払います。しかし、原則として、その家賃収入は父の不動産所得として計算します。

長男は財産を管理する人であり、父はその財産から利益を受ける人だからです。

父に確定申告が必要な場合は、信託不動産の収入と必要経費を父の申告に含めます。

なお、受託者が契約に基づいて報酬を受け取っている場合には、その報酬について、受託者側の税務も確認する必要があります。


受託者は信託不動産の収支を分けて管理します

受益者が正しく所得を計算するためには、受託者が信託不動産の収支を整理しておかなければなりません。

主に確認するのは、家賃や更新料などの収入と、管理費、修繕費、固定資産税、保険料、借入金利息などの支出です。

賃貸借契約書、管理会社の収支報告書、請求書、領収書、口座の入出金明細なども保管します。

信託財産のお金と受託者自身のお金が混在すると、所得計算が難しくなります。

信託専用の口座を利用するなど、信託不動産に関する入出金を区別して管理することが大切です。


信託不動産の所得は信託ごとに計算します

受益者が、信託した不動産と信託していない不動産の両方を所有している場合でも、信託から生じた所得は分けて計算します。

複数の信託契約がある場合には、それぞれの信託ごとに収入と必要経費を整理します。

同じ信託契約に複数の賃貸物件が含まれている場合は、その信託の中で、各物件の黒字と赤字を合わせて所得を計算します。

その結果、信託全体が黒字になれば、その黒字は受益者の不動産所得に含まれます。

問題となるのは、一つの信託について計算した結果、信託全体が赤字になった場合です。


信託から生じた赤字は、ほかの所得から差し引けません

通常、不動産所得の赤字は、一定の制限を除き、給与所得や事業所得などの黒字から差し引くことができます。これを損益通算といいます。

しかし、信託不動産から生じた損失は、原則として税務上なかったものとみなされます。

そのため、信託から生じた赤字を、次の所得から差し引くことはできません。

  • 信託していない賃貸不動産の黒字
  • 別の信託契約から生じた黒字
  • 給与所得や事業所得などの黒字

差し引けなかった赤字を翌年以降へ繰り越すこともできません。

300万円の赤字が生じた場合

受益者に次の所得があるとします。

  • 信託した賃貸マンションの赤字:300万円
  • 信託していない賃貸不動産の黒字:200万円
  • 給与所得:800万円

この場合、信託不動産の赤字300万円を、ほかの賃貸不動産の黒字や給与所得から差し引くことはできません。

信託していない賃貸不動産の黒字200万円は、そのまま受益者の不動産所得として計算されます。

信託する前であれば損益通算できた赤字が、信託後は利用できなくなる可能性があるため、注意が必要です。


大規模修繕や空室が見込まれる物件は注意が必要です

外壁工事、防水工事、設備の交換などによって多額の支出が発生すると、信託不動産の所得が赤字になることがあります。

空室が続いて家賃収入が減少する一方で、固定資産税や借入金利息などの支出が続く場合も同様です。

信託後にこのような赤字が生じても、ほかの所得から差し引けない可能性があります。

また、工事に支出した金額が、その年の修繕費になるとは限りません。工事の内容によっては、資産として計上し、何年かに分けて減価償却する場合があります。

大規模修繕や建替えを予定している場合は、修繕時期、今後の家賃収入、借入金の返済なども含め、どの不動産をいつ信託するかを事前に確認することが重要です。借入れがある場合は、相続時の債務控除についても、債務者と契約内容を確認する必要があります。


受託者は「信託の計算書」を提出する場合があります

受益者の所得税申告とは別に、受託者が税務署へ「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」を提出する場合があります。

これらの書類には、信託財産から生じた収益や費用、信託財産と債務の状況、受益者に関する情報などを記載します。

一般の個人が受託者となっている家族信託では、原則として翌年1月31日が提出期限です。

受益者の所得税の確定申告より期限が早いため、注意が必要です。

赤字でも提出が必要になることがあります

各受益者について、信託財産から生じた収益の合計額が年間3万円以下の場合は、原則として信託の計算書の提出を省略できます。

信託の計算期間が1年未満の場合は、1万5,000円以下が基準になります。

ここで判定するのは、必要経費を差し引いた後の利益ではなく、家賃などの収益の額です。

たとえば、次の場合を考えます。

  • 家賃収入:100万円
  • 必要経費:120万円
  • 所得:20万円の赤字

所得は赤字ですが、収益は100万円です。

したがって、赤字だから信託の計算書を提出しなくてよい、ということにはなりません。

一般的な賃貸不動産では家賃収入が年間3万円を超えるため、受託者側の提出手続を確認する必要があります。


信託を始めた年は早めに準備しましょう

年の途中で家族信託を始めた場合は、信託開始前と開始後の家賃や必要経費を区分します。

建物の減価償却についても、取得価額、取得時期、これまでに計上した減価償却費などを確認し、計算を引き継ぐ必要があります。

特に初年度は、次の事項を早めに整理しておきます。

  • 誰が受益者として所得を申告するのか
  • 信託開始前後の収支をどう区分するのか
  • 建物の減価償却費をどう計算するのか
  • 受託者が提出する書類があるか
  • 大規模修繕や不動産売却の予定があるか

受益者の確定申告だけを見ていると、受託者が翌年1月31日までに行う手続を見落とす可能性があります。


信託不動産の確定申告・税務手続をご相談いただけます

賃貸不動産の家族信託では、契約後も、毎年の収支管理、受益者の所得税申告、受託者による書類の提出が続きます。

特に、信託から生じた赤字を、信託していない不動産や給与などの所得から差し引けない点は、信託を始める前に確認しておきたい重要な事項です。

当事務所では、信託契約書、信託不動産の収支、受益者と受託者の関係などを確認し、必要な所得税申告と税務手続を整理します。

これから家族信託を始める場合だけでなく、既に信託を始めている場合の確定申告や信託の計算書についてもご相談いただけます。


※この記事は、一般的な家族信託に関する税務上の取扱いを説明したものです。具体的な取扱いは、信託契約の内容、受益者の人数、信託財産、収益の状況などによって異なります。